4月 桜の季節とピンクダイヤモンド
藤次郎は衣笠山にもほど近い平野神社を散歩していた。
「枝垂桜ももうすぐ満開やなあ」 京都にも桜の季節がきました。
桜は日本を代表する花のように言われてますが、日本で「花は桜」とイメージされるようになったのは平安時代以降。奈良時代は梅こそ愛でる花でした。
古今和歌集が編纂された頃には花といえば桜が和歌に詠まれるようになりましたが、現代の桜の代表であるソメイヨシノは江戸時代以降のもの。
2025年に“京都人の密かな愉しみ“というTV番組(NHK)で定期化して流れるようになった ”Rouge”編 でも
桜のシーンで山桜や枝垂れ桜がでてくるのは京都らしい。
京都を舞台にしてるからと言って、でてくる俳優さんが全部京都人というわけやない。
でも太秦で長年仕事している俳優さんもいてるので、京都弁がうまい俳優さんもいらっしゃる。
大阪の俳優さんもいろいろ出ているが、そのほうが大阪弁が身についているので苦労が多いのとちゃうやろうか しらんけど。
京都はいろいろな桜があり3月の下旬から4月下旬まで咲き乱れるのが楽しみのひとつ。
一番遅いのは、仁和寺の御室桜であろうか。
「わたしゃお多福 御室の桜 はなが低うても 人が好く」
と歌にもなっている。
藤次郎は、手が届くところで花が咲き、色白のきれいなこの桜を特に好んでいる。
「ソメイヨシノは、色がこいーて品がないなあ」
今年は、息子の義男に遅い春が来た。結婚相手の娘さんとは秋には式を挙げ東京へ移り住む。
息子に婚約指輪をどうするのか聞いたら、妻の静子が指輪を譲るので、それをリフォームして使うのだという。
相手の家は結構な資産家で新たに買うと貧弱になってしまうのは避けたいという事だった。
当時宝石を扱う貿易会社にいた藤次郎は、縁故ではあったがそれでも大枚はたいてダイヤモンドの指輪を送った。
取引先だったオーストラリアのアーガイル鉱山から産出したピンクの色が濃い大粒のダイヤだった。
妻は最初ダイヤだとは思わず、ダイヤだと聞いて目を丸くして驚いたのを覚えている。
特別価格で買えたが、そうでなければ藤次郎にはあれほどの石は買えなかっただろう。
いまは閉山してしまったため、希少性が高くなり値は爆上がりしているようだ。
「あんまり見え張ってもしょうがないけどなあ」
「おじさん、こんにちは」 玄関から若い女性の声が聞こえた。
横浜の親戚のとこの留依ちゃんだった。
「ようお越し、久しぶりやなあ。今回は何の用で上洛したんかいな。」
「父さんの知り合いが大阪のミネラルショーに出展するんだって。それでね裕二朗おじさんの石をぜひ目玉商品として置きたいと拝み倒されて父さんが口利きしたんだけど、『展示写真を撮るなら和彦兄いのスタジオで』と裕二朗おじさんが言ったので撮影するサンプルもってきたの。2,3日泊めてね。」
和彦とは裕二朗の次男で写真家である。小さいながらスタジオをもっていて関西ではジュエリーフォトグラファーとしてそこそこ名がしれている。
「魔法使いの石なら客寄せには文句なしやな。」
裕二朗は母方の親戚だ。昔宝石業界に関わっていたので裕二朗の評判はよく聞いて知っている。
「どうせなら、一緒にマドモアゼル・トメの魔女の館も出したらどうや。」
「おじさん、わたし占い師にはならないって言ってるでしょ。それにマドモアゼル・トメって何よ。
どうせなら“マドモアゼル・ルイ”でしょ。」
藤次郎は、飲んでいた京焼の湯吞茶碗を見てふと思いついたように言った。
「ちょうどお茶請けの菓子が切れてて近所のお菓子屋さんまでつきおうてくれへんか。」
すぐ近くのお菓子屋というその店は老舗のような趣がある和風建築の小さい店だった。
中にはいると、留依は明るいすっきりした白いカウンターの風情に面食らった。
「なにこれ、和菓子屋じゃあないの?」
どら焼きに見えたその菓子も抹茶とチョコのクリームを挟んだ洋菓子風。他もマカロンにあんずジャムやキンカンクリームといった和のテイストを全面にだしたものだった。
「ここは、古い実家の和菓子屋から暖簾分けした洋菓子と和菓子の融合をねらった新店舗や。店主は若い時から塩芳軒で修行してパリの“ル・コルドン・ブルー”で洋菓子の勉強したのち最近京都に戻ってきたんや。まだプレオープンみたいなもんや。」
留依はショーウインドウにある一つのお菓子に目がいった。それは桜色の「クリスタル・桜」と銘打った角ばったごつごつした物だった。
桜色の濃い透明な羊羹のような出来だが、留依にはなにか違和感があった。
「これ最初は春らしい名前できれいって言ってもらえるんだけど、人気なくてね。」
「味みてみないとなんとも言えないけど、野暮ったく見える。」
留依の一言に、じゃあとその場で出してくれたお菓子を二つに割って食べてみる。
「味はまあおいしいわ。でもこれクリスタルじゃないわ。」
「え?」
「クリスタルの真価は、こうするとわかるの。」
そういって留依は、お菓子に照明を当てて「ほら透け感が低いでしょ。」
光を当てると、断面は羊羹ぽい曇りが強調された。
「ピンクダイヤもピンクの濃い色が好まれるんじゃないの。薄くても透明感がある方が高級さがあるわ。」
「なるほど、桜色と言ってもウバ桜、山桜、ソメイヨシノ、色はいろいろあるわな。私の好きな御室桜は白うてもあれも桜色や。」
店主は、なにか思うところがあるようでじっと考え込んだあと「光をうけてこそジュエリーの輝きか」とつぶやき、挨拶もそこそこに奥へ引っ込んでいった。
藤次郎は、なにもいわず店をでた。
「もうすぐ、フランスのお師匠さんが日本にくるそうなんや。それで日本らしく「クリスタル・桜」をつくって出したんやけど評判がいまいちで頭抱えていたみたいなんや。」
「私も相談されたときになにか足りないと思ったが、いいアドバイスができなくてね。
いや、流石は「マドモアゼル・トメ」だ。」
「おじさん! ル・イ・です。フランスの王様と同じ ルイ!。」
一か月して京都新聞に“フランスのパティスリー界の至宝 MOF ○○氏も絶賛! 和菓子と洋菓子の融合「クリスタル・SAKURA」”の記事が載った。
SNSでも大評判で、店は連日売り切れとのことだ。
藤次郎は、店主が改良された「クリスタル・SAKURA」を最初に出してきた日のことをよく覚えている。
色は白に近くなり、LEDの照明光を浴びて以前より小ぶりだが透きとった中に桜の葉型の餡が小さくはいっている。
2つに割ると、断面がキラキラと光った。ザラメ上の粒が真ん中に仕込まれているのが光に反射してクリスタルのように輝いている。
「ええ出来や。」
「みんな藤次郎さんのおかげです。」
「いや、これも「白夜の魔法使い」の導く“縁(えにし)“なのかね。ちょうどあんたが暗い顔して悩んで鬱になっていることを聞いた後にタイミングよく裕二朗くんが留依を京都に呼び、あんたの悩みにヒントを与えた。でもそれを形にしたのはあんたの努力や。近所においしい店が増えて甘いもの好きの私もうれしい。」
藤次郎の手元には、過日の京都新聞の文化欄の写真付きの記事。フランスから来た○○氏と店主の肩を組んだ満面の笑顔の下に「クリスタルSAKURA」と共に光を浴びたホワイトウオーターのクリスタルが置かれていた。
【注】登場人物の名前や店名は架空のものであり、実在の人物、店舗とは全く関係がありません。


【誕生月石】
ここでは、登場する4月について
4月 誕生石 ダイヤモンド、モルガナイト ・ 誕生守護石 水晶
ダイヤモンドは昔は宝石の王様といわれエンゲージリングにつかう石の代表格でした。炭素(C)からできたモース硬度10と一番硬い宝石です。硬いのは割れにくいということではなく、一定の面に沿って割れやすい性質(劈開性)を持つため、急激な瞬間的な力に対しては、割れることがあります。天然ダイヤといまでは人工ダイヤも存在します。ともに炭素でできた結晶体です。二酸化ジルコニアでできたモース硬度8.25~8.5のキュービックジルコニアCZや炭化ケイ素(SiC)を主成分とするモース硬度9.25~9.5のモアッサナイトはともに人工石でありダイヤモンドとは別組成の石である。
なお、よくダイヤの代わりにファンシーアクセサリーとして使われる人工石のキュービックジルコニアと天然石のジルコンはまったく別の石で、ジルコン(ZrSiO4)は12月の天然石です。
宝石としてのダイヤはGIAという機関が4Cという独自の基準で鑑定を行っており、世界的な統一基準ができあがっています。
誕生石を知りたい方は、こちらの参考サイトもどうぞ
【出展】366日の誕生石
https://differencee-jewel.com/daily-birthstone/
他参考サイト:
https://em-ring.com/category/birthstone/
https://www.8740.jp/birthstone/
星座の石:4月19日までの牡羊座の星座石は””ガーネット”、”ルビー”、“インカローズ”等があります。後半の牡牛座の星座石は”エメラルド”、”翡翠”、”ローズクオーツ”、“マラカイト”等があります。

