宝石と宝玉の宝箱 第3話

3月 青い湖のほとりで

夏の終わり、真紀は、湖畔で一人すわって泣いていた。
先日、3年付き合った太郎と破局しその時妊娠していたのに堕さざるをえなかった。
太郎の家は裕福だった。付き合い初めにダイヤのネックレスもおくってくれるくらい。
1ct(カラット)位のそれなりの大きさのダイヤモンド。真紀の幸せの象徴だった。
でも彼は2股をしていて、資産家のお嬢さんと婚約がきまると簡単に捨てられた。

湖畔の“縁 えにし”という名のジュエリーショップ。
「これ、ルービックジルコニアですよ。いわゆる人工ダイヤってやつです。」
だまされていた。「私に見る目がなかったんだ。」
また、涙がでてきた。ガラン、ガラン。
入ってきたのは、高校生くらいの麦わら帽子をかぶった女の子。
「おじさん、お父さんのお使い。頼まれていたサンゴだって。」
「おー、留依ちゃん。お使いご苦労様、遠いところご苦労だったね。」
店主は真紀の方を振り返ると、一緒に見るかい?と誘った。
箱を開けるとガラスケースにはいった見事なサンゴの木だった。
「知り合いの旅館が玄関に置くのに枝ぶりのいいサンゴを探していてねえ。サンゴは子孫繁栄、家庭円満の証でカップルやご家族連れが多い和風旅館にはぴったりだとぜひ見つけてくれって頼まれていたんだよ。」
「父さんがこれはめったにない一品って自慢してたからね。濃淡のピンクが鮮やかで気持ちが華やかになるわ。」
真紀の目にもそれは見事なサンゴだった。
「お客さん、ダイヤだけが宝石じゃない。サンゴは厳密には元生物だけど、宝石としても珍重されますね。
こちらにサンゴのネックレスもありますよ。小ぶりだけど、なかなかきれいでしょ。」

表にマリンブルー色のワンボックスがとまった。
ガランガラン、ドアベルをならして別の客が入ってきた。
「あー真治さん、いまお宅の旅館にあうサンゴが入ってきましたよ。」
「ほー、とてもいい品ですね。母さんが喜びそうだ。トメちゃんが持ってきてくれたの?」
真治は、近くの旅館の次男坊で近くで旅館を時々手伝いつつ、キャンプ場で仕事をしている。
この湖にきたときの定宿で家族とも何度もとまったことがあるから、真治とは顔見知り。
真治は、ふと真紀の方を見た。「お客さん、この近くにキャンプ場があるんです。お客さんも一度どう?。最近ソロチャンプ流行っているんすよ。」
「おい、真治くん。自分の旅館を進めるのが先だろう。それに若い娘さんに“ソロキャンプ”はないだろう。」
真治は、自分の言った言葉の意味に気づいて赤くなった。
「ごめんなさい。いまソロキャンプ流行っているんで、つい。カップルでも、グループでも楽しいですよ。」
「いいえ、いいんです。わたし彼氏いませんし。友達もそんないないから。」
「なら、トメちゃんに彼氏ができる石を選んでもらったら。こいつ本名は留依っていうんだけど、周りからは「石のことなら、宝石からパワーストーンまでトメちゃんに相談しろ。と言われるくらい。こいつの選ぶ石は本物だから。」
「真治さん、わたしパワーストーンや占いやらないって言ってるでしょ。」
「まあまあ。 お客さん。トメちゃんに涙の訳を話してみたら。誰かに話聞いてもらうって、気持ちが楽になるよ。」
真紀はびっくりした。真治が店に入ってきたとき、ほほに残る涙を見られていたようだ。
店主も「奥の席使っていいよ。彼女に話して気持ちが楽になるだけでも儲けものだよ。うちも話の流れでなにか買ってもらったらうれしいし 笑。」
冗談だといいながら、奥の席を真紀と留依にすすめた。「いまお茶持ってくるね。いいアッサムがあるからミルクティーにしてあげるよ。」

真紀は、自分が二股かけられ別れたこと、そのとき中絶したことまですべて留依に話した。
はじめてなのになぜかこの子には何でも話して問題ない…そんな気にさせる不思議な目をしている子だと感じた。店の中に漂うやさしい空気もそんな印象を後押ししたのかもしれない。

「でもお医者さんには、若いからまだ産めるって言われたんですよね?。改めてしあわせな家庭をつくるのに遅すぎることなんてないですよ。
・・・ねえ、時間があるなら真治さんがやってるキャンプ場にとまっていったら?バンガローもあるから何も持ってきてなくても一泊位していけるよ」

そういうと、留依は外の車のところにいた真治のところへ向かった。ちょうど店に届けに来た薪をかたずけて今帰ろうとしている。
「ねえ、真治兄い お客さんがバンガロー泊まりたいらしいけど空いている?」
「毎度あり(笑)。この季節は大丈夫。。。」
店に戻ると、真治は真紀に握手してきた。
「お客さん、虹色バンガローへようこそ 真治です。」
「真紀です。急ですいません。ご迷惑でなかったですか」
「客が減る時期だから、逆におお助かりですよ」
荷物はすこしだからというと、真治は車でバンガローまで送っていくと真紀を助手席にのせて走り去った。

遠ざかる空色の車をみながら、二人並んだまま店主の裕二朗は小さな声でぽつりと聞いてきた。
「珍しいね。君のほうから縁(えにし)をつくってあげるなんて。」
「おじさんこそ、わざわざ私に話を振ってきたでしょ。」
「なんかね、サンゴが呼んでいるような気がしたんだ。」

裕二朗は実はネットの石の世界では『白夜の魔法使い』と呼ばれる有名人だ。
裕二朗の売る石は縁を結ぶ神秘のパワーストーンと呼ばれ、縁結びの依頼やビジネス界の有名企業人からはいろいろな相談も受けることが多い。
ただ、「ホワイトウオーター」というネットショップ商売に限定していて、東京の自宅はアルバイトの子がいるだけのため、湖で実店舗をやっていることを知る人はほとんどいない。本人は、『静かな湖畔の森の影でカッコウの鳴き声をきいて過ごしたい』と何処かの歌のようなことを言いながら隠者を気取っている。

「おじさん、あの人3月生まれってよくわかったわね。さすが”魔法使い”と言われるだけはあるわ。」
「へえ、あの子3月生まれだったんだ。道理でサンゴが呼ぶわけだ。」
「あの子最後は笑顔で車で去っていったね。」

〇年後、真紀は真治からプロポーズされた。
その指に贈られたのはアクアマリンの指輪。その翌年アクアマリンの石言葉のとおり、真紀は母になった。

【注】登場人物の名前や店名は架空のものであり、実在の人物、店舗とは全く関係がありません。

誕生日石

【誕生月石】
ここでは、登場する3月について
3月 誕生石 アクアマリン、サンゴ ・ 誕生守護石 ブルーレース

アクアマリンは、エメラルドと同じ「ベリル」鉱石の一種で淡いブルーの発色をもつ物を指します。水に由来するこの石は、ブラジルのサンタマリア鉱山で採掘されるものやモザンピーク産のサンタマリア・アフリカーナと呼ばれるマリンブルーのものが高品質が多いとされています。

誕生石を知りたい方は、こちらの参考サイトもどうぞ
【出展】366日の誕生石
https://differencee-jewel.com/daily-birthstone/

星座の石:3月20日までのうお座の星座石は”アクアマリン”、”モルガナイト”があります。後半の牡羊座の星座石は”ガーネット”、”ダイヤモンド”、”ルビー”、“サンゴ”があります。